JPDU代表の任期を終えて

※以下に記載されている内容は、私個人の見解であり、いかなる所属団体・組織等を代表するものではありません。

 

3月20日に第7回JPDU議会が終了し、JPDU Tournament規約改正案が採択されました(4月1日より施行されます)。3月31日まで任期は残っていますが、2023年度JPDU代表としての業務は概ね終了しました。

 

この1年間(と言っても選挙の遅延があり、任期の開始は5月でしたが)、正直なことを言えば自己評価としては50点くらいで、大きなことを成し得たようには自分では思えていません。

この1年間で多くの方に「頑張っている」「何かしてくれている」と思っていただき、様々なところで声をかけていただいたのは率直に嬉しかったです。ただ、(失礼に当たるかもしれませんが)おそらくイメージレベルでしか、JPDUとして行っている業務は伝わっていないのだろうと感じる場面も多く、中身を見て評価してもらうに至るまで、業務内容がディベーターの皆さんに伝わっていないことを考えると、「JPDUをより身近な存在にしたい」という私自身が立てていた目標は達成されておらず、また実態としても期待に応えられていない部分が多く、心苦しく思うことの方が多かったです。

もちろん、3年の時期にキャパをフルで発揮することは不可能である(+公務員試験対策も加えてしまっていたので…)ということはありますが、そのくらいの話は代表に就任する前から分かっていた話であり、言い訳に過ぎません。願うならば1年をやり直したい気持ちもありますが、自ら改正版JPDU規約内で「代表は、再任することができない。(JPDU規約第14条第5項)」という楔を刺した以上は、そうすることもできません(まあ2年間もやっていたら、新陳代謝が生まれずコミュニティーにとって害であるという当然の話はありますが…)。

 

退任にあたって、自分ができたこと・できなかったこと、課題に思うことなどをまとめた上で、退任の挨拶とさせていただきます。

 

<目次>

 

 

立てていた目標

JPDU HP上の代表挨拶

第1回JPDU議会で公開した活動目標(※Notion上の「JPDU議会」のページから閲覧可能。)

 

どこまで見られていたのかは分かりませんが、代表挨拶や第1回JPDU議会のレジュメにおいて、副代表と共に話しながら立てた1年間の目標としていたことを共有し、活動の方向性を役員・コミュニティーに対して示そうとしていました。

その中でも(個人的に)特に重視していたのは、「活気ある、身近なJPDUへ」という点です。その目的はレジュメにも記載がある通りですが、JPDUという各インステが揃う議論・意見交換のプラットフォームが機能し、またその活動を認知し関心を持ってもらえるようにすることで、日本パーラメンタリーディベート界の持続的な発展への基礎を形成できるよう心がけていました。議論の場がなければ課題への有効な対処はできませんし、関心が得られなければ「JPDU」というプラットフォームは役割を失います。

JPDUがどのような活動をしているかについて認知してもらえるよう、Notionを通じてJPDU議会のレジュメや議事要旨もアップロードしていましたが…が、こちらもどの程度見られていたのかは分かりません。JPDU議会で取り扱われる議題に対するパブリックコメント制度も導入しましたが、活用された事例はほとんどありませんでした。

また、活動を認知してもらう機会を増やせるよう、14th Icho Cupを起点に、大会での活動紹介も始めました。累計8回かなと思います(現場に行けず副代表に任せた回もありました)。

 

ただ、関心を高める・身近さをアピールするための取り組みは行ったものの、それが結実しているのかどうかはよく分かりません。今年度のJPDU役員の立候補者数は、昨年と比べてもほとんど変わっていないですし、何より個人的に心に残ったのは、第7回JPDU議会(最終回)の出席者数が11名だったことです(議決権事前行使を行った人数は17名)。もちろん、様々な予定が入る時期ではありますし、責める意図はありませんが、今年1年の活動の意義・成果について改めて考えさせられました。

 

出来たこと

上記の目標を基に、出来る限りJPDUの活動を活性化できるよう、様々な施策を実施しました。その過程において、私自身がリソースを割くこともそうですが、他の役員を巻き込んで進めていくことも意識していました。

私自身がJPDUにリソースを注いでいたことの証左として最もシンプルなものは、1年間でJPDU関連のミーティングに53回参加していたという事実かと思います。それ以外にも個人で作業を行っていた時間も相当程度あるので、少なくともディベーター・ジャッジをしていた時間よりは多くの時間をJPDUの業務に割いていたように思います。

 

全体に関わる仕事

  • JPDU議会の開催

全JPDU役員 + 役員提供免除申請を行っている団体の代表者によって構成される会議体です。全7回ミーティングを開催しました(5月、6月、7月、9月、11月、12月、3月)。昨年度までは定期的に会議を持つ場面がなく、LINEグループが存在したのみであったと記憶していますが、組織としての風通しを良くするためにも、様々な論点提起や議論ができる場を整えたいと思い、JPDU議会を定期開催するに至りました。

議会の進行自体は執行部(代表+副代表)が中心となって行っていましたが、他の役員からも課題の提起や様々な意見があり、1年間の活動を進めていく上でも、かなり参考になる部分が多かったです(特に、第6回JPDU議会におけるピースコ制度に関する議論はかなり重要なものになったのではないかと感じています)。

また、先述の通りですが、JPDUの活動の透明性を高め関心を持ってもらうことを目的として、パブリックコメント制度の導入やレジュメ・議事録の公開を行いました。

  • JPDU規約の改正、JPDU Tournament規約の改正

規約の改正の趣旨や内容に関しては、繰り返しPDML等でもご案内しているので、「JPDU議会のレジュメを見てください」とだけ述べるに留めておきます。(余談ですが、JPDU Tournamentにおけるハイブリッド開催に関する規定やDCA公募制の導入については、JPDU Spring Tournament 2023のTDをした際に発表した2つの声明文の内容を組み込んだものになります。)

私自身が規約の改正に拘っていた理由としては、単に私が法学部生で両規約の条文が法律用語や法学的な側面に照らして適切ではない箇所が多く、不満があったから…というだけではなく(この理由も実際はウェイトとしては比較的大きかったかもしれませんが)、「規約の死文化は組織を滅ぼす」と思っていたからです。

私が代表に就任した時点で、規約の条文に従わない慣行が多数築かれていました。例を挙げればキリがないですが、

  • JPDU規約では「選挙規定」に基づいて役員選挙が実施されることとなっているが、「選挙規定」は制定されていない(現在は「JPDU役員選挙規則」が存在します)
  • JPDU TournamentにおけるCA・DCA等の承認において、承認主体に本来含まれるべきである役員提供免除申請を行っている団体の代表者が含まれていない
  • JPDU Tournamentにおけるブレイク数は規約に基づき規定されているが、特にBP形式における大会では7年以上そのルールが守られていない

などです。

規約が死文化したとしても、その場で誰かが物事を動かし、組織は存続していくかもしれません。しかし、規約が省みられず意義を失った先には、JPDUという組織自体の意義の消失が待っていると思います。JPDU Tournamentが最も端的な例かもしれませんが、JPDU Tournament規約が死文化した先では、大会がその時々の主催者に属人化していき、JPDUがこれらの大会を主催する意義が消えてしまうように思います。JPDU規約に関して言えば、規約を無視した取り決めが横行した先では、組織の正当性自体に疑義が生まれます。

JPDUという組織・JPDU Tournamentという大会の在り方を固め、意義を付与していくためにも、規約が意味を成し、かつ現状に適応したものになっている必要があると考え、規約の改正に取り組みました。

一部副代表や規約改正ワーキンググループの方々に手伝ってもらった部分もありますが、条文の平仄を併せるためにも、基本的には改正案を1人で起草していたので、一番大変だった作業が何かと問われたら、これになるかと思います…。

  • JPDUの活動紹介

先述したので詳細は割愛しますが、そもそも組織の活動自体を認知してもらえていないという実態があった以上、意義を認知してもらうためにも、様々な場所(特に1年生が多い場)での活動紹介を心がけました。大会での活動紹介という試みもそうですし、PDMLへの配信回数も近年の中ではかなり多かったのではないかと思います。

 

各役職の仕事

詳細に入る前に一点だけ…。おそらく、大多数の役員は「先輩にとりあえず立候補してと言われた」「ほとんど仕事がないから大丈夫」と言われて立候補していたと思います。その事実を責めるつもりはありませんし、近年の流れとしてJPDUの軽視・形骸化があった以上は、仕方のないことだと思います。

その状況を打破し、当事者意識を持ってもらうためにも、代表として全員の業務状況を把握し、全役職に対して仕事を割り振ることを心がけていました。嫌々立候補し、特に何もすることがないと聞いていた方々には申し訳なかったです。

  • 広報:HPのリニューアル作業

JPDUの活動の中で何を一番やったか…と言われると、広報かな?という気もします。昨年度広報担当だったこともあり、半ば広報担当のリーダー的な立ち位置で(?)、ホームページのリニューアルに向けた調整や作業を進めていました。ホームページのリニューアル自体は2020年度の段階からずっと課題として提起されていたものであり、今年度ようやく実現にこぎつけることができました。(現ホームページのデザインは、元ディベーター・現役ウェブデザイナーの方にご協力いただいています。)

旧ホームページからどの内容を捨象し、書き換え、新ホームページとNotionをどのように使い分け、どのような内容を新ホームページNotionに掲載するか…といった検討・作業を長期間に渡って行った末、11月に更新作業か完了しました。ただ、当然ながらリニューアルして終わりではないので、内容の充実に向けて、私自身も2024年度の広報担当として引き続き取り組んで行く予定です。

(余談ですが、旧ホームページにあった「国内大会参加ガイド」「PDMLについて」などのページも自分で書き直しました。詳細かつ正確に説明することの難しさを実感しました…。)

  • 練習会:Silver Cupの開催支援

これは名誉顧問という謎の立ち位置で色々口を出していただけで、大会の進行自体は練習会担当の皆さんを中心に行われていました。ありがとうございました。

  • 総務 + 練習会:JPDU Summer Seminarの開催支援

これも「夏セミやりたい!」と私がJPDU議会で騒いだ(議案として取り上げた)だけで、実際に開催して下さったのはコミ・レクチャラーの皆さんです。本当にありがとうございました。

  • 総務:JPDU Tournament開催に向けた調整

これも開催時期・場所・形態に関してJPDU議会において議題として取り上げたり、TD募集を早期化したり…といった細かい調整を行っただけで、開催して下さったのは各大会のコミ・ACの皆さんです。本当にありがとうございました。おかげさまで2023年度は、4年ぶりに全てのJPDU Tournamentが対面(ハイブリッド)で開催された年度になりました。

 

 

コミュニティーとして

JPDU代表として仕事を行う中で、コミュニティー全体に感じたこと、課題に感じたことを記してみます。

縮小したコミュニティー

「大学パーラーコミュニティーは縮小した」とよく言われますが、それは紛れもない事実だと思います。

JPDU Spring Tournamentの参加チーム数推移(2020年は開催中止)

Gemini Cupの参加チーム数推移(2020年は欠失)
  • JPDU加盟団体数:46(2015年)→24(2023年)

(UTDS夏合宿2023 レクチャー資料より)

統計的に見ても縮小傾向は明らかです。言わずもがなですが、コロナ禍の影響は大きいと思います。オンライン化で失われたものを取り戻すためにも、各団体の皆さんは苦労されていることかと思います…。

  • ディベートはコロナ禍でオンライン化された中でも生き残ることが出来たという利点もあった反面、競技性の側面ばかりが強調されてしまうという課題も生まれた(オンラインだと交流はあまり発生しない)
  • 競技人口も減少傾向が顕著に→ 競技性以外の楽しみ方が見えにくくなった影響?
  • 大会や練習を通じた交流の機会、大会特有の盛り上がりなどはオンラインでは代替不可能な部分が多い
  • ディベートを取り巻く環境・その捉えられ方もオンライン化に伴う変化と言える

(UTDS夏合宿2023 レクチャー資料より)

 

しかし、着目すべきであるのは、コロナ禍を迎える2020年度以前から既に縮小傾向が見られていることです(cf. JPDU Spring Tournamentの参加チーム数)。もちろん、大会に参加するかどうかでディベート人口を測ることは、必ずしも正確とは言えません(大会に出場しないながらも、ディベートの活動に取り組んでいる方々も多くいらっしゃいます)。しかし、大会規模という1つのパラメーターに基づけば、既に縮小傾向が示されていると言えるのではないかと思います。

実際、2020年度以前から、大学ディベート界縮小を危惧している方々の文章もあります。特にインパクトが大きかったのは、JPDU Blogに掲載されたUmeko Cup 2019のCA寄稿文だと思います。(私自身も、今年度の活動を行っていくにあたってこの文章は何度も読み直しました。)

blogjpdu.blogspot.com

この記事の反響を受け、ピースコ制度の導入へと結実していくこととなります(cf. ピースコ制度検討室設置のお知らせ2020年度JPDU代表挨拶)。

また、同様の問題意識を示している記事は他にも存在します。

verflucht.hatenablog.com

 

どちらの記事でも指摘されている点をまとめると、「高校でのディベート経験者の増加により、大学からの新規参入のハードルが上昇しており、活動に取り組む大学数・人数(特に未経験者)が減少している」ということになるかと思います。

高校でのディベート経験者が全員大学でも継続するのであれば、恐らく大学のディベート人口は増加する…ということには理論的にはなりますが、現実にはそうではありません(私の高校同期や周りでディベートをしていた高校の方、入賞経験が何度もあったような方も含めて、大多数の方は大学入学時点でディベート以外の活動を選択していました)。新しい活動に取り組みたい、ディベートはもう既にやり切った…など、様々な理由があるのだろうと推測します。その傾向はディベートに限らず、極めて自然なことですし(逆に、高校の頃と同じ活動にずっと取り組んでいる人という人の方が少数派な気がします)、抜本的に変えることは難しいと思います。

梅子杯の先行発表に書かせていただいたことを敢えて繰り返しますが、

  • 高校におけるパーラメンタリーディベートの普及に伴う1年生の平均レベルの上昇、BPやAsianフォーマットの大会増加による国際化の進展などの変化は、国際大会で活躍する日本人ディベーターを多数生んだ点で大変な意義があった

一方、

  • AsianやBPフォーマットが主流になったことにより部員数が多く練習環境に恵まれている大学、多くのジャッジ提供が可能な大学への教育機会や大会出場機会の偏在が加速した
  • 大学1年生の春~夏の時点で経験者との大きな実力差を目の当たりにして気持ちが萎えてしまう未経験者が増えた

結果として、

  • 強豪大学に所属している経験者と、根性とセンスがあり運にも恵まれた一部の未経験者以外が排除されるディベート界になってしまっている

これが直視すべき現実ではないでしょうか。

(Umeko Cup 2019に際して①~早川さんからの寄稿文~ より)

 

高校ディベートは間違いなく隆盛しています。私が中3だった頃のHPDUの県大会は実質的にはほとんどフリーパスだったと記憶していますが、今となっては、競争が激しい都道府県では1/3程度の学校しか全国へと行けないシビアな世界になっています(全国大会の出場校数自体は変わっていません、むしろ昔と比べたら増加傾向だと思います)。

また、UTDS Motionsで一昔の1年生大会のモーションを見てもらえればすぐ分かると思いますが、今や1年生大会に求められる技量もかなり高くなっています。いわゆる「(初心者向けの)古典モーション」は少数派になりました(もちろん、各大会のACの皆さんがより良いモーションを選ぶべく、試行錯誤されていることは承知の上ですし、傾向として仕方ない側面もあると思います)。日本パーラー界のレベルが上がっていることは喜ぶべきことなのかもしれませんが、同時にそれが作り出す負の側面についても、考えを及ぼす必要があると思います。

 

高校経験者と大会の在り方

(上記の記事でも指摘がありますが)高校経験者の存在を踏まえた時に、特に注意が必要なのは学年大会(特に1年生大会)の有する限界です。同じ「1年生」の中にも、既に中高で長期間経験を積んでいるディベーターもいれば、大学入学と同時にディベートを始めたディベーターもいます。(1年生大会における高校生の扱い…という論点については、ここでは話の本筋から逸れるので割愛します。興味のある方は是非一緒にお話ししましょう)

その限界に対する応答として、1年生大会において高校での経験を考慮した「ルーキー」カテゴリーの創設は、近年は概ね一般化しているように思います。また、そもそも参加者を学年ではなく表彰歴により区分する試みも存在しており、オープンブレイク歴を有しないディベーターのみを対象としたとうきょうみに(いわゆる「ひらがなみに」)も開催されました(というより創設しました)し、Nemophila Cup・Tea Cup等でも同様の取り組みが行われています。

1年生大会が果たす役割は昔と比較して大きく変化しています。かつてはほぼ全員が初心者・未経験者であったものが、今では半数程度が経験者という状況になっています。また、残念ながら時間が経つにつれ経験者の割合は高くなっていっています。

(中略)

昔であれば、1年生大会にルーキー基準などというものは必要なかったのです。とてもシンプルに見えるかもしれませんが、1年生大会ほど思考を要する大会はないかと思います。

(13th Icho Cup 引き継ぎ書 より)

 

高校ディベート経験者がほとんどおらず、横並びのスタートが当然の前提であった時代は、学年で区切ることは自然なことでした。しかし、スタート地点が人によって大きく変わっている現在においては、参加者を学年で区切ることは必ずしも自明ではありません。かつての考えに基づくのであれば、「同程度の経験 / 経験期間を有する者を対象とする」方がむしろ適切かもしれません。

一方で、大会はそれ自体、競い合う場として重要であることは間違いがないですが、(大会に向けた練習等)サークル内の交流を深める場として、またサークル同士の結節点として大きな役割を果たしていると思います。特に、同学年内の関係性が築かれやすい環境を作ることは、学年がある程度重視される日本社会のコンテクストを踏まえれば、競技人口を維持していく上でも重要かと思います。

高校での未経験者・経験者にとって、1年生大会にはどのような意義があるのでしょうか。

 

<高校での未経験者>
・1年生コミュニティーの形成
・初めての大会参加の場
<高校での経験者>
・1年生コミュニティーの形成
・学生・オープン大会へのステップアップの場(高校生大会とオープン大会のレベル差はまだ大きい)

 

1年生大会に対して求められているものは多面的になっています。

極端なことを言ってしまえば、「1年生」というカテゴリーではなく、「未経験者」「経験者」というカテゴリーに分けて大会が開催された方が矛盾は小さくなるように思います。
ただ、(THW introduce grade skippingのOpp.で言われるような話ですが)「未経験者」「経験者」を別世界のものとして括ってしまうのは、明示的に差があることを示すような行為であり、1年生コミュニティーの分断にも繋がる可能性があります。(人がディベート界に残るかどうかがにおいて、コミュニティーの密度が重要なのはもはや言うまでもないでしょう)

このような矛盾と上手く向き合いつつ、未経験者が続けるインセンティブを確保するためにも、ルーキー資格の設定を慎重に行うことは極めて重要かと思います。

(13th Icho Cup 引き継ぎ書 より(一部改変))

 

あくまでも個人の見解なので、「1年生コミュニティーの形成のために1年生大会は重要」という考えが絶対であるとは思いませんが、私個人としては、1年生大会という枠組みは存置しつつも、高校未経験者に対して表彰枠・ブレイク枠の面で工夫をするという方向性が、現実的ではないかと考えています。

 

多様な現実を映し出すコミュニティー

私がこの1年間で得た最も大きな経験の1つは、実は代表の業務とは直接関係があるところではなく、自分が指導者として応募したピースコでの経験だったと感じています。

自分が所属しているUTDSというコミュニティーや大会等を通じて知り合った方々は、大会に出場するなどcompetitiveにディベートを行うことをディベートという活動の中心においている方が大半を占めています。頭の中ではそれ以外のコミュニティーもあるということは理解しているものの、それ以外のコミュニティーについては知る機会がない、というより知る機会を十分に持とうとしていませんでした。しかし、ピースコの活動の一環として東京都立大学に出向き(計9回)、合宿にも参加させていただく中で、ディベートに対しての向き合い方は多様であること、そして唯一解があるものではないということを強く意識させられました。

扱っている論題のレベルで言えば一昔前の1年生大会程度の比較的平易なものが多いですし、大会への出場も年に数回、ルーキー向け大会(Nemophila Cupつぼみ部門、Tea Cupなど)を中心に出場する程度ですが、ディベートという競技に対する愛や、練習から得る学びに対する真摯さに関して言えば、自分の周りの中でも有数に高いレベルのように思いますし(ある意味ベクトルが違うものかとは思うので、単純比較するものでもありませんが…)、コミュニティーとしての結束も下級生から上級生まで含めて強いものになっているように感じました。

 

ピースコの経験で学んだことは、「ディベート界」と言ってもその中身は一義的に定まるものではなく、ディベート界は実に多様な現実のあるコミュニティーであるということです。高校未経験者に関係する話は先述していますが、それだけでなく、大学に入ってから先の経路も多様です。

その象徴として、「地域交流練習会」の発足・活動の拡大は、今後のディベート界を語る上でも、非常に大きなものになったように感じています。ディベートは大会で競い合うだけでなく、ディベートを通じて英語力を磨く・知識を深めるといった楽しみ方もあり、1人1人多様な楽しみ方があるはずです(competitiveにディベートをしている人の中にも、向き合い方に違いがあるのと同じように…)。多くの道があるということを広め、競技の裾野を拡大するという側面で、非常に大きな意義のある取り組みであり、関わっている皆さんには深く感謝しています。

ths-yrfw-renshukai.studio.site

 

ピースコ制度

どのような方向性でディベートを楽しむにしても、ディベートという活動の性質上、ある程度の人数やノウハウは必要不可欠です。しかし、所謂「中小インステ」が直面しているのは、ディベートを指導できる人がおらず、また活動に関わる人数も減少しているという厳しい現実です。結果として、先述したような活動団体数の減少も発生しています。

これに関しては、単一のインステで問題を解決することは相当難しいと思います。そこで、JPDUが多様なディベートコミュニティーを繋ぐ結節点として、役割を果たしていくことが重要になると思います。ノウハウの提供という側面では、ディベートを指導できる人材を紹介し、指導者が行いたい指導の方向性・指導校が受けたい指導の方向性を踏まえてマッチングをするピースコ制度が提供できる価値を、どのように最大化していけるかが求められます。また、それだけではなく、各団体をどのように持続させていくかという活動の伴走者としての支援も求められるフェーズに入ってきているように感じています。そのメニューには指導者を継続的に確保することだけでなく、新歓の方法や定着率を上げるための取り組みを考える、近隣の他大学との関係構築を支援する…など、様々なオプションが考えられます。考えられるがゆえに、ここまでをも「ピースコ制度」という制度に要求するのは難しいようにも思いますが…。

(もちろん、competitiveにディベートをしたいと考えている新興の中小インステに対する支援も等しく重要だと思いますので、そちらもJPDUとして支援できるよう、2024年度の地域担当として職責を果たしたいと考えています。)

 

 

JPDUとして

JPDUの「2025年問題」

巷で言う「2025年問題」は超高齢社会になることで発生する諸問題のことですが、それではなく。「JPDUの資金は、このままのペースで行けば2025年に底をつく」という問題です(2022年度末時点の試算です)。

2020年度の役員報酬(JPDU役員に対して支払われる報酬)の導入、2021年度のピースコ制度の正式運用開始とピースコ報酬(ピースコ指導者に対して支払われる報酬)の導入を機に、JPDUの支出が大幅に増加しました。

同時に、コロナ禍の影響があり、JPDU Spring Tournament 2020の中止やJPDU Seminarの中止が重なったため、各種イベントから納入される金額が減少し、2020年度は赤字となりました。

2020年度末時点では「JPDU Tourmanent・JPDU Seminar・JPDU練習会を通常通り開催し、それぞれ一定額の納入を受ければ収支均衡を達成できる」と見通されていましたが、2021年度・2022年度は開催されないセミナー・練習会や納入額が少ない・納入が行われない大会があったことも影響し、2020年度と比較しても大幅な赤字を計上しています。

幸い、繰越金が積み立てられているため、赤字を出したからといって直ちにJPDUが破産するに至っている訳ではありませんが、2021年度・2022年度の赤字額が継続すれば、2024年度で運転資金は概ね底をつき、2025年中には破産するだろう…というのが「JPDUの『2025年問題』」です。

2023年度は会費の徴収を2年ぶりに行い、またJPDU Summer Seminarを開催できたことや大会からの納入額が大幅に増加したこともあり、収支均衡に近づいた…はず(私自身の功績でも何でもなく、各大会・セミナー主催者の努力の賜物です…)ですが、ピースコの対象校が大幅に増加したため、それでも黒字になるかは分かりません。ただ、これも延命措置が施されただけで、本質的な問題の解決にはなっていません。

 

パンドラの箱」?

JPDU役員に対して適正な報酬を支払うこと、ピースコ指導者に対して適正な報酬を支払うこと。これらはいずれも道義的には正しいと思いますし、ボランティアのような形で搾取することが適切だとは思いません。

ただ、コミュニティーが縮小期に入り、大会・練習会・セミナーの参加者が減り、開催されなくなっていき、JPDUの収支構造が不安定化する中において、これらを導入することは、「パンドラの箱」を開けてしまったとも言えるように思います。

上述した2020年度末の見通しは、今の尺度で言えば相当楽観的であると言わざるを得ないと思います(ただ、これは当然「今の目線で言えば」楽観的であるだけであり、当時は妥当な水準だったのだろうと推測します)。その見通しを基に役員報酬制度・ピースコ制度が成立し、慢性的な赤字が継続することとなり、2022年度末の繰越金は、2019年度末にあった繰越金の半額以下となっています。

 

財政問題の解消

JPDUの財政問題を解消させるためには、収入を増やすか支出を減らすしかありません。

収入の増加については、JPDU Tournament・JPDU Seminarからの納入をこれ以上増加させることは現実的ではないように思います(コミやACに払われるべき対価を削ることになるので…)。となると、①支出を減らす②収入を別の方法で増やす、の2パターンが想定されます。

①については、役員報酬を廃止すればおおよそ収支は均衡します。ただ、それが道義的に正しいのかどうかは難しいところです。

②は、現在のJPDU広報担当(幸か不幸か、今年度も来年度もメンバーがおおよそ似てしまっていますが)の目指している方針になります。何らかの方法でスポンサーを獲得し、活動の継続に繋げるという方向性です。ただ、過去に何度も立ち消えになっている(cf. 2020年度代表挨拶過去JPDU役員内のスポンサー担当の存在)話でもありますので、十分な原因分析と成功に向けた道筋を考える必要がある…と2024年度広報担当の立場として思っています。

 

JPDUの構造

先述したように、JPDUにはまずお金がありません。そして役員数も大幅に減少しています(cf. 過去役員一覧 2020年度:35名→2021年度:38名→2022年度:34名→2023年度:26名→2024年度:19名)。ただ、役員の数に関しては、仕事の分担を適切に行い活動に当事者意識を持ってもらえるという観点で言えば、近年の水準は適正な気もしますが…。

ただいずれにしても、潤沢にリソースがある訳ではないので、どこにリソースを配分するかという点が重要になってくると思います。極論を言えば、ディベート界の全てを管理すれば解決する問題もあるのかもしれませんが、現実的ではないと思います。

 

また、JPDUは各サークルでの活動と異なり、組織への帰属意識や活動への当事者意識、「恩返し」を行うといった意識が極めて持ちにくいうえ、報酬額も職務に見合うものでは到底なく(cf. 規約類の「JPDU役員報酬規則」、コミの仕事の方が対価が大きいことさえあります)、役員の活動に対するインセンティブ付けを行うことが難しい組織になっています。

今年度の役員には出来る限り当事者意識を持ってもらえるよう、ディベートの課題について意見交換を行う場を設けたり、様々な仕事を各役員に割り振ったりしていました(あまり仕事をやりたくなかった・仕事をやる想定ではなかった方も多かったと思います、そこは申し訳ないです)。

組織の構造的にインセンティブ付けを行うことが難しい(微々たる額の役員報酬の増減を行ったところで動機づけには寄与しないと思うので…)以上は、出来る限り多くの役員に問題意識を共有し、共感してもらえるようにするしかない…と思っての方向性でしたが、やはり何か抜本的に意識を高める奇策を用意するといったことは難しいと思います…。

 

JPDUの意義

旧ホームページには、JPDUの役割として、以下のような文章が記されていました。

JPDUは日本のパーラメンタリーディベート団体の増加、国際大会への参加者の増加という現状を踏まえ、ディベーターの意思疎通を図り、共通の見解を生み出せるような団体として以下の目的を持ち、国内外にて様々な事務処理や意思決定を行っています。

「パーラメンタリーディベート団体の増加」というのは、コミュニティーが縮小している今からすれば信じ難い話ですが、先述の通り、確かにコミュニティーは縮小しています。

 

状況の変化を踏まえて、私が新しく書き直した現在のホームページに掲載されているのは以下の文章です。

JPDUは、日本の大学におけるパーラメンタリーディベートの中心機関として、コミュニティーの持続的な発展を達成すべく、コミュニティー内の意思疎通を図り、また各種イベントの開催や各大学の団体の活動支援などを通じて、活動の普及・振興に努めています。

 

コミュニティーの拡大期とは異なり、現状のディベート界においてあぐらをかき現状維持を継続することは、活動の縮小と(団体内・団体間の)格差の拡大をもたらし、実質的にはコミュニティーが滅びるのを待つことと同じだと(個人的には)思っています。

JPDUとしても、これまで行われてきた業務は引き続き行いつつも、単一インステでは解決できない新たな課題に対する対応も柔軟に行っていくことが求められていると思います。そのためには、JPDUというインステ間のコミュニケーションのプラットフォームを維持し続け、またコミュニティーの一人一人が当事者意識を持ちながら行動を起こしていく(JPDUの活動に限りません)ことが重要になると考えています。

 

JPDUの意義を「見つける」ために

正直なことを言えば、特に大会に多く出ている層のディベーターの方にとって、現在JPDUは「大会・セミナーを開催し、よく分からないけど会費を徴収するだけの組織」に見えていてもおかしくないと思います。(これは近年だけに限らないかもしれませんが)JPDUの活動は、その性質上意義が見えにくいものになっています。

そのような状態を脱却していくためにも、JPDUの活動についての周知を図り、その意義を理解してもらえるような場面を少しずつ増やしていく必要があるのではないかと思います。

 

 

最後に

冒頭で「50点」と自分の活動を評したのは、自分の行っていた活動に足りない部分が多いと感じているからです。特に最も反省しなければならないのは、表面上の問題(JPDU規約・JPDU Tournament規約の改正等)には向き合っていたものの、そこにとらわれ過ぎており(時間をかけすぎており)、JPDUが抱える本質的な課題に十分に向き合えていなかった点です。例えば、冒頭の目標で掲げていた「ピースコ制度の見直し」「初心者へのアプローチの強化」といった点については、十分に時間を取れていた訳ではありませんし、先述している予算の問題もそうです。

結局のところ、今年度の活動は元からあったものを多少作り変えたりしただけであり、特段大きな成果を上げられたとは思えない、というのが噓偽りない所感です。

それでも、JPDU内で意思疎通を行うことができる環境(ミーティングの実施や役職間のやり取りなど)が一般化し、少なからず活動について認知してもらえるようになったことは、成果の1つと言えるかもしれません。というより、それを成果と自分で言わないと、この1年間が何だったのか自分でも分からなくなりそうですね…。

 

また、予算というJPDUが抱える大きな問題に気付きながら、解決策を打ち出すまでに至れなかったことも非常に申し訳なく、心残りが大きいです(来年度は広報担当として少しでも尽力します…)。

ピースコが止まることはあってはならないと思っていますし、(極論私の役員報酬は返上してもいいと思っていますが)きちんと仕事を行っていた役員は十分な対価をもって報われるべきだと思っていますが、必ずどこかで財政面に関する判断を下す必要があると思います。

来年度以降、予算の問題がこれまで以上に切迫し、かなり難しい舵取りを迫られることになると思いますが、自分自身としても役員の1名として貢献したいと思っています。コミュニティーの皆さんにも引き続きJPDUの活動に関心を寄せていただき、ご協力いただけるととても嬉しい限りです。

また、コミュニティーを良くしていきたい!と思っている意欲のある人(別にディベートが強いとか強くないとかは全く関係ありません)に、ぜひ今後のディベート界を引っ張って行って欲しいです。(その活動の場は別にJPDUでなくても構わないと思います、個人的にはもちろんJPDUだと嬉しいですが…)

 

謝辞

短い言葉にはなってしまいますが、活動に関心を寄せ、応援して下さった全ての皆さん、そして私がお願いした調査や疑問に対する回答なども含め、活動に様々な場面で協力してくださった皆さんには、改めて深く御礼申し上げます。

また、役員の皆さん・JPDU議会構成員の皆さんにも本当にお世話になりました。今後ともより良いディベート界の実現に向けて、またどこかで協力できると嬉しいです。そしてこの記事を読んでいる皆さんも、ぜひ身近な役員の方に感謝を伝えてもらえると私自身としても嬉しいです。

 

最後に、4名の副代表へ。

正直なことを言えば、最初は不安もありました。全員顔見知りではありましたが、深く関わっていた人は多い訳ではなく、JPDUの活動に対してどの程度のモチベーションを持っているか、最初の時点では分からなかったからです。

しかし、最初のミーティングが終わった時点でその不安はなくなりました。その後も様々な話題を一緒に真剣に話すことができ、とても嬉しかったです。そして何より、活動を通じて仲良くなることができて楽しかったです。

本当にありがとう。そして、今後とも色々な場面でよろしくお願いします。